【簡単解説】プラスチックであふれた海「海洋プラスチックごみ問題」とは?

【簡単解説】プラスチックであふれた海「海洋プラスチックごみ問題」とは?

海洋プラスチックごみ問題について触れたいと思います。

このブログでも以前に「プラスチックとはどういうものであるのか」「プラスチックは環境に良くない」といったことをお話しました。今回はそのプラスチックに関わる大きな問題である「海洋プラスチックごみ」問題について少しだけお話していきます。

海洋プラスチックごみ問題とは?

皆さんも一度はこの「海洋プラスチックごみ」の問題のことをどこかで目にしたり耳にしたことがあるでしょう。
この問題はメディアでも度々取り上げられていますので、この問題について理解して、大きな問題であると捉えられた人もいると思いますが、実際かなり深刻な問題になっています。

ペットボトルや食品容器、ビニール袋などがポイ捨てされたり、またきちんと捨てられているプラスチックごみも適切な処分がされないことによって、環境中に大量に流出しています。そして環境中に流出したプラスチックごみはほとんどが海へと流され、海洋プラスチックごみになっているのです。

こうして海洋プラスチックごみとなったプラスチックの量はとてつもないものです。

既に世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみの量は、合計で1億5,000万トンを超えているといいます。そして、さらに年間およそ800万トンのペースで増えていっているのです。

アメリカのカリフォルニア海上からハワイにかけて広がる北太平洋上の海域には広さ160万㎞²を超えると言われる「太平洋ごみベルト」と呼ばれる海域まで存在しています。

この海域は、世界でもっとも多くのゴミが漂う海域で、160万㎞²を超えると言われるその広さは日本の国土面積の4倍以上にも相当します。

しかも当然海洋プラスチックごみは海面に浮かんでいて見えるものだけではありません。私たちには見えない海中、海底には海面に見えているものよりもはるかに多いであろうプラスチックごみが存在しているのです。

プラスチックの何が問題であるかというと、その量ももちろんそうなのですが、自然に分解されないことです。先ほど海洋プラスチックごみの量とさらに毎年増え続けていることを少し書きましたが、自然の力では分解されないので、いつまでも残り続けて、増え続けていくのです。

この海洋プラスチックごみの問題はそれ自体だけでなく、さまざまな深刻な問題を発生させています。

そのひとつが海の生態系への悪影響です。

魚類、海鳥、アザラシやウミガメなど多くの生物が海洋プラスチックごみの影響によって、傷つけられたり死んだりしているのです。それらの生物が漁網などに絡まったり、ポリ袋を餌と間違えて食べることはもはや珍しいものではなく、かなりの確率で起こってしまっていることです。

インドネシアの島に流れ着いたマッコウクジラのケースでは、ビニール袋やペットボトルなど、約6㎏もの大量のプラスチックごみが胃の中から出てきたといいます。

その他にも自然を活用する産業、主に観光業や漁業には間接的、直接的に被害が及んでいて、経済的な損失が発生しています。

マイクロプラスチック

この海洋プラスチックごみ問題に関して、「マイクロプラスチック」という言葉を知っている人も多くいることでしょう。

マイクロプラスチックとは、その名の通り小さなプラスチックのことで、大きさが5㎜以下になったプラスチックを指します。プラスチック製品の原料である「レジンペレット」と呼ばれる粒や、化粧品などの成分としても使われる「マイクロビーズ」、フリースなどの服を洗濯したときに出てくる細かい化学繊維も、マイクロプラスチックの一種です。また、もともとは大きなプラスチック製品であったものも、太陽の熱や紫外線、波の力などで細かく砕けることで、最終的にはすべてマイクロプラスチックとなっていきます。

こうしたマイクロプラスチックの破片や粒が、海中に無数に漂っているのです。

海洋生態系への悪影響

ここからは、海洋生態系への悪影響についてもう少し詳しく書いていきます。

マイクロプラスチックが溢れている海では、そこに生息する生物がプラスチックを体内に取り込んでしまいます。魚や海鳥など海の生物が餌と間違えてマイクロプラスチックを食べてしまうことで、炎症反応、摂食障害などを起こす可能性があることが指摘されています。

プラスチックを体内に取り込んでしまうことは、溶けだしたプラスチックの添加剤なども一緒に取り込んでしまうことにもなります。しかもプラスチック片が細かくなるほどに添加剤は染み出しやすくなります。

プラスチックの添加剤は、加工しやすくするような可塑剤、燃えにくくする難燃剤、色を付ける着色剤など様々な種類があります。その中に環境ホルモンと呼ばれる多くの種類の化学物質が含まれているのです。この化学物質、代表的なものにビスフェノールAやフタル酸エステルというものがありますが、これらは人間をはじめとした生物にとって有害な害を及ぼす可能性があります。

通常、海中にあるプラスチックは分解されてマイクロプラスチックになるのに、そしてプラスチックの添加剤が溶け出すのには長い時間がかかります。ですが、生物が取り込んでしまったプラスチックは消化液に含まれる油分に反応することで、添加剤を溶かすのを進めてしまいます。なので、生物がプラスチックを取り込むと、化学物質を体内に取り入れることになります。そして、マイクロプラスチックを摂取したプランクトンを小魚が食べ、その小魚を中型の魚が食べ、さらにそれを大型の魚を食べて、というような食物連鎖を通じて、化学物質が生物の体内に溜まっていってしまうことになるのです。

まだ明らかにされていないことは多いですが、化学物質が体内に溜まってしまうことで、当然それによる悪影響を受けることが考えられます。プラスチックの添加剤は内分泌撹乱物質を含んでおり、生物の免疫系や生殖系に悪影響を与える可能性があることが指摘されています。

それを取り込んでしまう魚などはもちろん影響を受けることがあるわけですけれども、先ほどの食物連鎖のようにそうした魚を人が食べることによって人体にも添加剤が取り込まれてしまうことになるわけです。海洋プラスチックごみ問題の海洋生態系への悪影響は、海の生物だけでなく、私たち人間にも悪影響を与えることにつながってくるのです。

海洋生態系への悪影響は、海の生物がプラスチックを体内に取り込んでしまうことだけではありません。

海に捨てられた漁具などのプラスチックによって、別の深刻な問題が起こっています。
皆さんも網に絡まりながら海を泳ぐウミガメの写真などをどこかでご覧になったことはありませんか。

「ゴーストギア」と呼ばれる海に流出した漁網などの漁具による海の生物への被害です。この「ゴーストギア」のほとんどは、プラスチックでできていて、海洋プラスチックごみの10%程度を占めているともいわれています。漁業で使用された漁網、紐、ロープなどが故意であったりそうでなくても、捨てられたりしてかなりの量が海に漂っているのです。

ゴーストギアに絡まることで、アザラシや海鳥、ウミガメをはじめとした多くの海の生物が身動きが取れなくなったり、呼吸ができなくなったりしています。ひどい場合には長い間苦しみ続けて命を落とすことにもなります。

一般にゴーストギアは、現状の漁業においては発生が避けられない副産物となっているのですが、ゴーストギアがもたらす被害はかなり大きいもので、毎年多くの海の生物がその犠牲になり、漁業や観光への影響を含め莫大な規模の経済的損失が生じているのです。

改善していくためには

海洋プラスチックごみ問題は、とても解決が難しい問題です。

マイクロプラスチックはその小ささゆえに回収することはとても難しく、マイクロプラスチックになってしまうと回収するのはほとんど不可能だとも言えるかもしれません。最近では、マイクロプラスチックを回収できる装置などが開発されてきていますが、それが機能してマイクロプラスチックを減らしていくことができるかは不透明だと言えると思います。

海洋プラスチックごみ問題の改善策としては、何よりもプラスチックごみを出さないことが重要です。

海に流れたプラスチックごみは半永久的に残り続け、プラスチックごみを出した分だけ増え続けていくので、これ以上増やさないように努力するしかありません。

海に流れたプラスチックをどう減らしていくのかではなく、新たにプラスチックごみを出さないように、どう減らしていくのかをまず考えて実行していかなければなりません。

そのためには、私たち一人ひとりがプラスチックごみを減らすために意識する、当たり前のことをすることが最も重要な解決策となります。

ごみのポイ捨て、不法投棄をしないこと。
ごみを分別して出すこと。
使い捨てプラスチックの使用を減らすこと。

こうした誰もがすぐできることを多くの人が実行していくのが、海洋プラスチックごみ問題に限らず、プラスチック問題を解決するためには最も重要なのです。この問題を改善していくためには国際機関や政府の政策も必要ではあると思いますが、私たち一人ひとりの行動によってでしか、この問題は改善されていくことがないとも言えるのではないかと私は思います。

私もプラスチックごみを出さないようにするほんの少しの行動を習慣にして、継続していかなければと思っていますし、皆さんも普段の生活でほんの少し意識して、自らが出すプラスチックごみを減らせるように何か行動につなげていってもらいたいなと願っています。

参考文献
海洋プラスチック問題について WWFジャパンホームページ https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html